鍛鉄との出会い~「鍛冶屋になろうと思ったわけではなかった」

鍛鉄との出会い~「鍛冶屋になろうと思ったわけではなかった」

 

夫の加成幸男は、高校を卒業後、地元の消防署に勤めていました。

当時はレスキュー隊に所属し、それはそれで自分に合っている仕事と思っていたようです。

ですが、いつしか現場の第一線で動けるのも30歳くらいまではないかと感じ始めていました。

 

この先も組織の中に属して働いていくことを考えた時、

「何か違う」と感じるようになりました。

 

家族や親戚に自営業をしていて、手に職を持った人が多かったこともあってか、

次第に自分も職人仕事がしたいと強く思うようになって…

 

「職人なら何でもよかった」

そう、鍛冶屋にこだわっていたわけではありません。

大工、左官、建具屋、など何でもよかったんですって。

本人は当時をそう振り返ります。

 

そんな時に出会ったのが、「鍛鉄工芸家」として仕事をしている西田光男氏でした。

 

早速連絡を取り、工房を訪ねることに。

 

埼玉の山あいにあるモダンな工房を初めて見て、

「こんなおしゃれなところで仕事をしているんだ」と、私たちは驚きました。

そして、そこで初めて「鍛鉄」という仕事を目にしました。

 

鍛鉄 (たんてつ) って?

鉄を熱し、叩いてかたちをつくる。

それを繰り返しながら、一つ一つかたちにしていく仕事です。

いわゆる「鍛冶屋さん」です。

型に流して同じものをつくる鋳造(ちゅうぞう)とは異なります。

 

西田氏は、鍛鉄にこだわる仕事をしていてご自身を「鍛鉄工芸家」と名乗っていました。

 

こんな仕事があることさえ、それまで知らなかった私たち。

この仕事で生計を立てていることに、ただただ驚き、信じられなかったりが正直な気持ち。

 

そんな幸男へ、西田氏は唐突に聞きました。

 

「じゃあ、いつから来るの?」

 

一瞬の間があって、

 

「明日から来ます!」

 

ああ、言っちゃった…私は、この場面が強く印象に残っていて

今も、昨日のことのように覚えています。

本当、今も!

 

思えば、このひと言が今に続く鍛冶屋人生の始まりだったのでしょう。

 

後になって聞くと、

もし、あの時に「来週から」とか「何日から」と答えたら、

「じゃあ、来なくていいよ」と言われそうな気がしたから

「明日から」って答えたんですって。

 

こうして、鍛鉄の歩みが始まったのです。

幸男22歳、私たちが結婚する、2年前のことです。