15 9月 鍛鉄との出会い~「鍛冶屋になろうと思ったわけではなかった」
夫の加成幸男は、高校を卒業後、地元の消防署に勤めていました。
当時はレスキュー隊に所属し、それはそれで自分に合っている仕事と思っていたようです。
ですが、いつしか現場の第一線で動けるのも30歳くらいまではないかと感じ始めていました。
この先も組織の中に属して働いていくことを考えた時、
「何か違う」と感じるようになりました。
家族や親戚に自営業をしていて、手に職を持った人が多かったこともあってか、
次第に自分も職人仕事がしたいと強く思うようになって…
「職人なら何でもよかった」
そう、鍛冶屋にこだわっていたわけではありません。
大工、左官、建具屋、など何でもよかったんですって。
本人は当時をそう振り返ります。
そんな時に出会ったのが、「鍛鉄工芸家」として仕事をしている西田光男氏でした。
早速連絡を取り、工房を訪ねることに。
埼玉の山あいにあるモダンな工房を初めて見て、
「こんなおしゃれなところで仕事をしているんだ」と、私たちは驚きました。
そして、そこで初めて「鍛鉄」という仕事を目にしました。
鍛鉄 (たんてつ) って?
鉄を熱し、叩いてかたちをつくる。
それを繰り返しながら、一つ一つかたちにしていく仕事です。
いわゆる「鍛冶屋さん」です。
型に流して同じものをつくる鋳造(ちゅうぞう)とは異なります。
西田氏は、鍛鉄にこだわる仕事をしていてご自身を「鍛鉄工芸家」と名乗っていました。
こんな仕事があることさえ、それまで知らなかった私たち。
この仕事で生計を立てていることに、ただただ驚き、信じられなかったりが正直な気持ち。
そんな幸男へ、西田氏は唐突に聞きました。
「じゃあ、いつから来るの?」
一瞬の間があって、
「明日から来ます!」
ああ、言っちゃった…私は、この場面が強く印象に残っていて
今も、昨日のことのように覚えています。
本当、今も!
思えば、このひと言が今に続く鍛冶屋人生の始まりだったのでしょう。
後になって聞くと、
もし、あの時に「来週から」とか「何日から」と答えたら、
「じゃあ、来なくていいよ」と言われそうな気がしたから
「明日から」って答えたんですって。
こうして、鍛鉄の歩みが始まったのです。
幸男22歳、私たちが結婚する、2年前のことです。